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自動運転技術と社会実装|Turing Driveのモビリティ革新

自動運転技術と社会実装|Turing Driveのモビリティ革新

少子高齢化や人手不足が進む日本において、「自動運転」はもはや未来の技術ではなく、社会課題を解決するための現実的な選択肢になりつつあります。

私は台湾発の自動運転スタートアップ Turing Drive で日本市場の事業開発を担当しています。日本各地の自治体や事業者の方々とお話しする中で、「いつ実用化されるのか」よりも「どこから、どう使えるのか」という視点が強まっていると感じています。

本記事では、自動運転の基本的な仕組みから、自動運転レベル、AI(人工知能)による制御技術、そして公共交通や観光地で進む自動運転バスの実証事例、さらに社会実装と安全性への取り組みまで、現場視点で分かりやすく解説します。


自動運転の仕組みとレベル別比較(L1〜L5)

自動運転レベル(L0〜L5)は、一般にSAEの考え方をベースに、日本でも国土交通省等の資料で整理されている区分です。ポイントは「車両の加減速・操舵をどこまで自動化するか」だけではなく、走行中の周囲監視と運転タスク(DDTDynamic Driving Task)を誰が担うか、そして ODD(運行設計領域/限定領域)を超えそうなときに誰がフォールバック(安全に停止等)を担うか、という責任分界にあります。

日本では特に、レベル12は「運転支援車」、レベル3以上は「自動運転車」という整理が明確です。また、レベル3およびレベル4ODD(運行設計領域)の範囲内でのみ自動運転が可能である点が重要です。

レベル別の整理(日本で誤解されやすい点も含めて)

レベル運転タスク(DDT)の主体周囲監視の主体フォールバック(限界時対応)日本の実務での理解
L0自動化なし(警報・AEB等があっても「運転自動化」ではない扱いになり得る)。
L1人(縦 or 横のどちらかを支援)例:ACCや車線維持支援など。主体は常に運転者。
L2人(縦+横を同時に支援はあり得る)人(常時監視)複合支援でも「自動運転」ではなく運転支援(監視義務は運転者)。
L3システム(ODD内のDDTを実施)システム(ODD内)原則:運転者が引継ぎ要請に対応「条件付自動運転」。システムが運転するが、要請時に運転者が適切対応が必要。
L4システム(ODD内のDDT+フォールバックも含む)システム(ODD内)システム(最小リスク状態へ)運転者がいない状態での運行も想定され、日本では「特定自動運行」等の枠組みで整理が進む。
L5システム(ODDなし=全領域)システムシステムすべての環境で自動運転。現時点の社会実装は非常に限定的。

※本記事で用いる自動運転レベル(L0〜L5)は、SAE(米国自動車技術者協会)が定義した国際的な分類をベースに、日本の制度・ガイダンスに沿って説明しています。

 
AI(人工知能)による自動運転制御技術


日本市場で注目される E2E(End-to-End)型自動運転とは

自動運転の中核を担うのは、AI(人工知能)による判断と制御です。近年、ディープラーニングの進化によって歩行者や車両、障害物など周辺環境の認識精度が大きく向上しました。現在、日本市場ではその次のアプローチとして「E2E(End-to-End)自動運転」に高い関心が集まっています。

E2E 自動運転とは、カメラやLiDARなどのセンサ入力から、加速・減速・操舵といった車両制御出力までを、一つのAIモデルで直接学習・判断する考え方です。従来の「認識・判断・制御」を段階的に分けた構成と比べ、複雑な交通状況を全体として捉えられる可能性がある点が注目されています。

日本の道路環境には、雨や霧、夜間走行、狭い生活道路、見通しの悪い交差点といった課題が数多く存在します。そのため、E2Eだけに依存した自動運転の判断には慎重な議論が行われています。大量かつ高品質な学習データの確保、判断根拠の説明性(なぜその操作を行ったのか)、異常時の安全確保といった課題は、現在も業界全体で検討が続いています。

Turing Driveでは、現時点で純粋なE2E方式を全面採用しているわけではありませんが、将来的なE2E活用を見据えた設計思想を重視しています。具体的には、

  • 日本の実走行環境に即したデータを蓄積し、AI判断の精度を段階的に高めること
  • AIによる判断と、ルールベースの安全制約や車両制御ロジックを適切に組み合わせること
  • 万一の誤判断に備え、システム全体として安全側に制御できるフェールセーフ構成を維持すること

を基本方針としています。

AIは万能ではありません。しかし、E2Eという新しいアプローチが登場した今、AIに何をどこまで任せ、何をシステム側で制約・補完するかを慎重に設計することが、日本における実用的な自動運転の鍵になると考えています。


E2E(End-to-End)自動運転と従来型アーキテクチャの違い

現在の自動運転技術は、大きく「従来型アーキテクチャ」と「E2E(End-to-End)型アーキテクチャ」に分けて議論されることが多くなっています。

なお、従来型アーキテクチャは一般に「rule-based(ルールベース)」と呼ばれることもあります。しかし、実際には機械学習による認識・予測とルールベースの安全制約や制御ロジックを組み合わせたモジュール分離型の構成が主流です。

両者の違いは、AIがどの段階まで判断を担うか、そしてシステム全体としての設計思想にあります。

項目従来型アーキテクチャE2E(End-to-End)型
判断構造認識・判断・制御を段階的に分離センサ入力から制御出力までを一括学習
AIの役割主に認識・一部判断判断・制御を含む全体最適
説明性各処理段階の挙動を把握しやすい判断根拠の可視化が難しい場合がある
データ要件比較的限定的大量かつ多様な実走行データが必要
日本市場との相性現在の社会実装と親和性が高い今後の発展が期待されるが慎重な検証が必要
イメージしやすい代表例Waymo、日系自動車メーカー・大手サプライヤーの多くTesla などに代表されるE2E 志向のアプローチ

※上記はあくまでアーキテクチャの考え方を理解しやすくするための例であり、各社の実装は用途や安全設計に応じて異なります。


公共交通・観光地での自動運転バス実証

公共交通・観光地で自動運転バスの実証実験が進む理由

日本において自動運転の実証が最も進んでいる分野の一つが、公共交通や観光地における自動運転バスです。これらの領域では、慢性的なドライバー不足や運行コストの増加といった課題が顕在化しています。そのため、限定されたルート・速度・運行時間で導入できる自動運転が現実的な解決策として期待されています。

自動運転バスの実証では、単に「自動で走れるかどうか」を確認するだけではありません。

実際には、

  • 定められたルートを安定して走行できるか
  • 歩行者や自転車、観光客の多い環境で安全に対応できるか
  • 停留所での停止精度や発進タイミングが利用者にとって自然か
  • 運行中に異常が発生した場合、どのように検知・対応できるか

といった、日常運行を前提とした検証が行われます。

特に観光地や地域交通では、道路幅が狭い、見通しが悪い、利用者の行動が予測しにくい――そのような日本特有の厳しい条件が数多く存在します。そのため、センサーによる認識や車両制御だけでなく、運行設計そのものが技術性能に大きく影響します。したがって、自動運転バスの実証は、技術検証であると同時に、運行ルールや管理方法を含めた総合的な検討の場でもあります。

こうした実証を通じて得られる知見は、次の段階である社会実装や安全性確保の議論につながっていきます。自動運転を「実験」で終わらせず、地域の移動手段として定着させるためには、技術だけでなく、運営・管理・住民理解まで含めた設計が不可欠です。


国の支援制度を活用した自動運転実証の進め方

日本において、自動運転を社会実装へと進める第一歩として、多くの自治体では国の支援制度を活用した実証プロジェクトが検討されています。例えば、国土交通省では、地域公共交通や次世代モビリティを対象とした取り組みを通じて、自治体と民間事業者が連携する実証を後押ししてきました。

また、総務省の地域DXやスマートシティ関連施策では、通信インフラや遠隔監視を含む自動運転の実証環境整備が支援対象となるケースもあります。これにより、技術検証と運用検討を同時に進めやすい枠組みが整えられています。

さらに、海外スタートアップと日本の自治体・企業をつなぐ取り組みとして、JETROが実証機会の創出や事業化に向けた支援を行うケースも増えています。こうした制度を活用すれば、自治体と民間企業が役割を分担しつつ、自動運転バスの実証を現実的に開始することが可能です。

自動運転の社会実装は、一つの組織だけで完結するものではありません。国の制度、自治体の課題認識、そして民間企業の技術や運用ノウハウを組み合わせることで、初めて持続可能な取り組みとして成立していきます。

検討フェーズ主な検討内容関係者の例
① 目的整理実証の目的(地域交通/観光/将来導入)自治体、交通事業者
② エリア定義運行ルート、ODD、走行条件自治体、警察
③ 技術選定車両種別、アーキテクチャ、センサー構成技術提供企業
④ 運行設計運行管理、遠隔監視、異常時対応運行事業者
⑤ 地域調整住民説明、試乗、利用者対応自治体、地域団体
⑥ 制度・支援国の支援制度、外部スキーム活用国・支援機関
⑦ 評価・次段階実証評価、本格導入検討全関係者


自動運転の社会実装への取り組みと安全性確保

公共交通や観光地での自動運転実証を通じて明らかになるのは、自動運転の課題が単なる技術性能にとどまらないという点です。安定した走行や障害物回避といった技術的要件に加え、運行管理、異常時対応、そして利用者や地域社会からの信頼形成が、社会実装においては同じくらい重要になります。


そのため、日本における自動運転の社会実装は、実証で得られた知見を積み重ねながら、安全性を前提とした運用設計と体制整備を段階的に進める形で展開されています。

近年では、こうした考え方を前提とした実証が、日本各地でより具体的な形として進み始めています。象徴的な例の一つが、大阪・関西万博に向けて進められている自動運転バスの取り組みです。万博会場という大規模で来場者の非常に多い環境において、自動運転車両が実際に運行されています。そして、走行データだけでなく、利用者の安心感や受容性も含めた評価が実施されています。これは「実験」にとどまらず、社会実装を前提とした運行検証として位置づけられている点が特徴です。

また、地方都市や都市近郊でも、実運行を見据えた実証が進んでいます。福井県永平寺町では、限定エリアで自動運転カートの継続運行が実施されました。遠隔監視体制の下で一般利用者を乗せた運行も実現しました。一方で、降雪や天候の変化への対応や運行管理の属人化といった課題も明確になってきました。これらの課題に対処するには、技術面と並行して運用設計を磨き続ける必要があることが示されています。

さらに、愛知県岡崎市では、アイサンテクノロジーなどが参画し、大型路線バスを用いた市街地での自動運転実証が実施されました。既存の公共交通に近い条件下で、自動運転をどのように組み込めるかの検証が進められています。また、利用者や運行事業者がそれをどう受け止めるかについての評価も行われています。静岡県内でも、市街地を対象とした自動運転バスの実証を通じて、地域交通との調整や社会受容性の確認が進められています。

地域・形態主な取り組み内容検証されたポイント明らかになった課題
大阪・関西万博会場内外での自動運転バス運行大規模来場環境での実運行、利用者受容性混雑時対応、位置精度の安定性
福井県永平寺町限定ルートでの継続運行遠隔監視下での安定走行降雪・天候変化、運行管理体制
愛知県岡崎市大型路線バスによる市街地実証既存公共交通への適用可能性運用ルール設計、事業性検討
静岡県内市街地・地域交通での実証市民理解・受容性の確認地域交通との調整

これらの事例から共通して見えてくるのは、自動運転の社会実装は「技術が完成すれば終わり」ではないという点です。冗長設計、遠隔監視を含む運行管理、地域ごとの利用実態に合わせたルール設計が揃って初めて、実用として成立します。

私自身、日本市場でのプロジェクトに関わる中で強く感じるのは、個別の実証で得られた知見を次の導入にどう活かしていくかが、自動運転普及のスピードを左右するということです。実証を積み重ねることで、自動運転は徐々に「特別な実験」から「地域を支える移動手段」へと移行していくと考えています。

おわりに:日本で求められる自動運転とは

自動運転技術は、単なる先端技術ではありません。人手不足、地域交通、観光振興、安全性の確保といった、日本社会が直面する課題に真正面から向き合うための手段です。

台湾で培った自動運転技術を、日本の現場に合わせて磨き込み、本当に使える自動運転サービスとして社会実装していく。

それが、Turing Driveが日本市場で目指しているモビリティ革新です。

本記事は、台湾発の自動運転スタートアップ Turing Drive で日本市場の事業開発を担当するメンバーが、その現場視点から執筆したものです。

まとめ

本記事では、自動運転技術の基本から、日本における実証・社会実装の現状、そして今後の課題について整理しました。


自動運転は単なる技術革新ではなく、地域の移動を支えるインフラとして設計されるべきものです。Turing Driveでは、日本市場の現場で得られた知見をもとに、実用に向けた取り組みを進めています。