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Day: March 4, 2026

日本におけるスマートシティと自動運転:都市交通の未来

日本でスマートシティが「構想」から「実装」へ移ってきた最大の理由は、人口減少・高齢化・災害対応・インフラ老朽化など、都市課題が複合的に表面化し、自治体単独の改善では追いつかない局面に入ったからだと、私は日本市場の現場で強く感じています。こうした背景のもと、日本政府はスマートシティをまちづくりの基本コンセプトとして位置付け、官民連携を前提とした推進体制を整えています。 一方で、現場(自治体・交通事業者・場域主)にとって「最初に詰まる」論点は、かなりの確率で都市交通です。住民の移動、観光回遊、病院への足、物流・商業動線、そして災害時の避難や道路状況把握まで——交通は、他分野の政策成果を左右する“横串”のインフラだからです。 制度面でも、2023年4月に道路交通法の自動運転関係規定が施行され、SAEレベル4相当の「特定自動運行」の許可制度が整備されました。これにより、運転者がいない状態での自動運転を制度上扱える土台ができています。 本稿は、私がTuring Driveで日本市場を担当する立場として、自治体・自動運転業界・車両メーカー・場域主が「次の意思決定」をできるように、日本国内の具体事例を軸に整理したものです。 ひたちBRT(茨城県日立市):車外HMIの検討と実証 スマートシティは単なるIoTやICT導入ではありません。都市全体のデータを連携・統合し、防災・医療・エネルギー・交通など各分野を横断的に最適化する取り組みです。内閣府が示すように、都市OS(データ連携基盤)を中核に置き、「相互運用性」「データ流通性」「拡張容易性」を備えた都市モデルが求められています。交通DXはこの一部であり、交通データを都市OSに接続してMaaSや信号制御と統合することで、新しい移動サービスを生み出す技術です。 実際、会津若松市では都市OSを活用し、行政・防災・観光など6分野で16サービスを連携、合計22サービスを都市OS上で相互運用可能としました。つくば市でも、データ連携基盤を整備して住民の医療情報や交通情報を一元管理し、スマートシティ施策に展開しています。これらの事例は、都市OSが単独のITシステムではなく、政策・運用を含むまちづくりのプラットフォームであることを示しています。都市OSを基盤に、交通データの活用やAI分析を進めることこそが、都市交通のDXを加速する要諦です。 自動運転バスは、スマートシティの中でも特に「成果が見えやすい」領域です。ただし、ここで誤解されやすいのが、レベル4=完全に人が不要という短絡です。制度上、レベル4相当の自動運転(特定自動運行)を扱う許可制度は整備されていますが、現場運用は「ODD(運行設計領域)を限定し、遠隔監視や現地対応を含めて安全を成立させる」設計が基本になります。警察庁が整理する道路交通法(自動運転関係)でも、運転者がいない状態の自動運転を扱う制度として特定自動運行許可制度が創設され、2023年4月に施行されたことが明示されています。 永平寺町:国内初のレベル4サービスが示した「限定条件で成立させる」思考法 国内初のレベル4自動運転移動サービスとして広く参照されるのが、福井県永平寺町の事例です。ここでは、車両側(道路運送車両法に基づく自動運行装置の認可)と、運行側(道路交通法に基づく特定自動運行の許可)という両面の許認可を揃えたうえで、サービスとして成立させています。 具体的には、開発主体の産業技術総合研究所が、2023年3月30日にレベル4の自動運行装置としての認可を取得し、運行主体のZENコネクトが2023年5月11日付で特定自動運行の許可を取得した流れが、公的プロジェクトサイトで整理されています。 さらに、サービス運行は永平寺参ろーど等を含む約2km区間で、速度条件(12km/h以下)や気象条件(強い雨・降雪・濃霧・夜間を除外)など、ODDを明確に限定しています。 そして、サービス開始の記念式典では、レベル4運行中の遠隔監視室の様子も公表されており、「無人化=監視もゼロ」ではなく、運用を含めた安全の成立が社会実装の鍵であることが読み取れます。経済産業省の発表。 この事例が示したのは、「最初から全国どこでも走る」ではなく、限定条件で成立させ、許認可・運行設計・安全対応を積み上げるアプローチです。これは、自治体にとっても車両メーカーにとっても、最短距離で“社会実装”に到達しやすい現実解です。 次に、都市部で象徴的なのが大田区の羽田イノベーションシティです。このケースでは、2020年9月からレベル2相当の運行実績を積み上げ、2024年8月からレベル4自動運転バスが継続運行中であることが、RoAD to the L4の事例ページに整理されています。 体制面では、事業主体が羽田みらい開発とBOLDLY、運行業務受託者がセネック、システム設計・運行関与にマクニカやAuve Techが含まれる、と明記されています。 ここで重要なのは、車両技術だけでなく、開発・運行・場域の役割分担を最初から設計していることです。 また、民間主体の事業として自動運転レベル4運行許可を取得した旨を公表した資料では、将来的に羽田空港第3ターミナル方面のルートで複数回の実証を重ねたこと、遠隔監視システムを用いて体制構築に取り組んできたことも示されています。 このモデルは、場域主(再開発エリア、空港・港湾、工業団地、観光集積地)にとって再現性が高い。都市部でも「まずは管理されたエリアで社会実装し、次に公道・一般交通へ拡張する」という段階設計が現実的であることを、データとして示しました。 公共交通の“主戦場”に近い形で進んでいるのが、日立市のひたちBRTです。 産業技術総合研究所の発表によれば、既存のひたちBRT路線のうち、まずはバス専用道区間(約6.1km)で特定自動運行(レベル4)を行い、この区間はレベル4として国内最長であること、交差点(11箇所)・横断箇所・バス停が存在する複雑な道路環境での戦略を構築したことが示されています。 ひたちBRT(茨城県日立市):車外HMIの検討と実証 また、現時点では料金収受やドア開閉等のため乗務員を配置する(乗務員乗車型)一方、歩行者用信号機が無い交差点ではレベル4からレベル2へ自動的に切り替え、横断歩道通過後に再びレベル4へ戻す、といった運用の細部まで公開されています。歩行者用信号機の設置に向けて警察と協議している点も含め、「車両だけで完結しない」交通システム設計の実例です。 この事例は、自治体・交通事業者にとって「専用道・BRTの資産を活かしながら、自動運転で運行の安定性と持続性を高める」方向性を具体化しました。スマートシティ文脈でも、既存インフラの再価値化は非常に重要です。 技術と同じくらい重要なのが、社会受容性(信頼・安心)です。2025年の大阪・関西万博では、会場内外周バス(e Mover)での実証を通じて、利用者の意識変化をアンケートで把握する取り組みが公開されています。大阪府の資料によれば、推計乗車人数は約40,400名、自動運転での走行距離は約35,300kmとされ、利用前後で「快適」「安全」評価が上がり、「運転者がいない不安」が下がったことが示されています。 大屋根リング下を走行中の様子 さらに、万博公式のスマートモビリティ紹介では、EVバスに加えレベル4自動運転等の新技術融合を打ち出しており、イベントが「実証の舞台」として機能したことが読み取れます。 交通DXの観点では、こうした大規模運行における運行管理・案内・混雑制御は、まさにスマートシティが目指す統合運用の縮図です。 日本の自動運転バス実装パターン比較 事例 主な運行エリア ODD(運行設計領域) 運行体制 インフラ依存度 主な目的 福井県 永平寺町 遊歩道・生活道路 低速(約12km/h)・限定ルート・歩車分離環境 遠隔監視型(レベル4) 低〜中(専用経路中心) 地域移動確保・レベル4定常運行モデル構築 羽田イノベーションシティ 街区内 → 空港周辺ルート拡張 限定区域から公道接続へ段階拡張 現地オペレーター+遠隔監視併用 中(都市インフラとの接続) 都市型自動運転の社会受容性検証 ひたちBRT(茨城県) 専用道+一般道交差部 […]

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