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日本におけるスマートシティと自動運転:都市交通の未来

日本におけるスマートシティと自動運転:都市交通の未来

日本におけるスマートシティと自動運転:都市交通の未来

*掲載の写真はイメージであり、実際とは異なる場合があります。

日本でスマートシティが「構想」から「実装」へ移ってきた最大の理由は、人口減少・高齢化・災害対応・インフラ老朽化など、都市課題が複合的に表面化し、自治体単独の改善では追いつかない局面に入ったからだと、私は日本市場の現場で強く感じています。こうした背景のもと、日本政府はスマートシティをまちづくりの基本コンセプトとして位置付け、官民連携を前提とした推進体制を整えています。

一方で、現場(自治体・交通事業者・場域主)にとって「最初に詰まる」論点は、かなりの確率で都市交通です。住民の移動、観光回遊、病院への足、物流・商業動線、そして災害時の避難や道路状況把握まで——交通は、他分野の政策成果を左右する“横串”のインフラだからです。

制度面でも、2023年4月に道路交通法の自動運転関係規定が施行され、SAEレベル4相当の「特定自動運行」の許可制度が整備されました。これにより、運転者がいない状態での自動運転を制度上扱える土台ができています。

本稿は、私がTuring Driveで日本市場を担当する立場として、自治体・自動運転業界・車両メーカー・場域主が「次の意思決定」をできるように、日本国内の具体事例を軸に整理したものです。

ひたちBRT(茨城県日立市):車外HMIの検討と実証
スマートシティとは何か:デジタル化と交通DX

スマートシティは単なるIoTやICT導入ではありません。都市全体のデータを連携・統合し、防災・医療・エネルギー・交通など各分野を横断的に最適化する取り組みです。内閣府が示すように、都市OS(データ連携基盤)を中核に置き、「相互運用性」「データ流通性」「拡張容易性」を備えた都市モデルが求められています。交通DXはこの一部であり、交通データを都市OSに接続してMaaSや信号制御と統合することで、新しい移動サービスを生み出す技術です。

実際、会津若松市では都市OSを活用し、行政・防災・観光など6分野で16サービスを連携、合計22サービスを都市OS上で相互運用可能としました。つくば市でも、データ連携基盤を整備して住民の医療情報や交通情報を一元管理し、スマートシティ施策に展開しています。これらの事例は、都市OSが単独のITシステムではなく、政策・運用を含むまちづくりのプラットフォームであることを示しています。都市OSを基盤に、交通データの活用やAI分析を進めることこそが、都市交通のDXを加速する要諦です。


自動運転バス実証と都市交通の最適化

自動運転バスは、スマートシティの中でも特に「成果が見えやすい」領域です。ただし、ここで誤解されやすいのが、レベル4=完全に人が不要という短絡です。制度上、レベル4相当の自動運転(特定自動運行)を扱う許可制度は整備されていますが、現場運用は「ODD(運行設計領域)を限定し、遠隔監視や現地対応を含めて安全を成立させる」設計が基本になります。警察庁が整理する道路交通法(自動運転関係)でも、運転者がいない状態の自動運転を扱う制度として特定自動運行許可制度が創設され、2023年4月に施行されたことが明示されています。

永平寺町:国内初のレベル4サービスが示した「限定条件で成立させる」思考法

国内初のレベル4自動運転移動サービスとして広く参照されるのが、福井県永平寺町の事例です。ここでは、車両側(道路運送車両法に基づく自動運行装置の認可)と、運行側(道路交通法に基づく特定自動運行の許可)という両面の許認可を揃えたうえで、サービスとして成立させています。

具体的には、開発主体の産業技術総合研究所が、2023年3月30日にレベル4の自動運行装置としての認可を取得し、運行主体のZENコネクトが2023年5月11日付で特定自動運行の許可を取得した流れが、公的プロジェクトサイトで整理されています。 さらに、サービス運行は永平寺参ろーど等を含む約2km区間で、速度条件(12km/h以下)や気象条件(強い雨・降雪・濃霧・夜間を除外)など、ODDを明確に限定しています。

そして、サービス開始の記念式典では、レベル4運行中の遠隔監視室の様子も公表されており、「無人化=監視もゼロ」ではなく、運用を含めた安全の成立が社会実装の鍵であることが読み取れます。経済産業省の発表

※出典:経済産業省「レベル4自動運転移動サービスの開始に係る記念式典」2023年5月22日

この事例が示したのは、「最初から全国どこでも走る」ではなく、限定条件で成立させ、許認可・運行設計・安全対応を積み上げるアプローチです。これは、自治体にとっても車両メーカーにとっても、最短距離で“社会実装”に到達しやすい現実解です。


大田区・羽田:民間主導のレベル4が示した「スマートシティのテストベッド」モデル

次に、都市部で象徴的なのが大田区の羽田イノベーションシティです。このケースでは、2020年9月からレベル2相当の運行実績を積み上げ、2024年8月からレベル4自動運転バスが継続運行中であることが、RoAD to the L4の事例ページに整理されています。

体制面では、事業主体が羽田みらい開発BOLDLY、運行業務受託者がセネック、システム設計・運行関与にマクニカAuve Techが含まれる、と明記されています。 ここで重要なのは、車両技術だけでなく、開発・運行・場域の役割分担を最初から設計していることです。

また、民間主体の事業として自動運転レベル4運行許可を取得した旨を公表した資料では、将来的に羽田空港第3ターミナル方面のルートで複数回の実証を重ねたこと、遠隔監視システムを用いて体制構築に取り組んできたことも示されています。

※出典:鹿島建設株式会社、BOLDLY 株式会社、羽田みらい開発株式会社「「HANEDA INNOVATION CITY® 」内において自動運転レベル 4 でのバスの運行が可能に」2024 年 6 月 26 日

このモデルは、場域主(再開発エリア、空港・港湾、工業団地、観光集積地)にとって再現性が高い。都市部でも「まずは管理されたエリアで社会実装し、次に公道・一般交通へ拡張する」という段階設計が現実的であることを、データとして示しました。


日立市・ひたちBRT:中型バス×専用道が示した「既存インフラを活かす」最適化

公共交通の“主戦場”に近い形で進んでいるのが、日立市のひたちBRTです。

産業技術総合研究所の発表によれば、既存のひたちBRT路線のうち、まずはバス専用道区間(約6.1km)で特定自動運行(レベル4)を行い、この区間はレベル4として国内最長であること、交差点(11箇所)・横断箇所・バス停が存在する複雑な道路環境での戦略を構築したことが示されています。

ひたちBRT(茨城県日立市):車外HMIの検討と実証
ひたちBRT(茨城県日立市):車外HMIの検討と実証
※出典:公道交差を含む専用道区間等における レベル4自動運転サービスの実現に向けた取り組み,2024年2月28日,RoAD to the L4 プロジェクト成果報告会,発表者:加藤 晋・テーマ2リーダー (国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

また、現時点では料金収受やドア開閉等のため乗務員を配置する(乗務員乗車型)一方、歩行者用信号機が無い交差点ではレベル4からレベル2へ自動的に切り替え、横断歩道通過後に再びレベル4へ戻す、といった運用の細部まで公開されています。歩行者用信号機の設置に向けて警察と協議している点も含め、「車両だけで完結しない」交通システム設計の実例です。

この事例は、自治体・交通事業者にとって「専用道・BRTの資産を活かしながら、自動運転で運行の安定性と持続性を高める」方向性を具体化しました。スマートシティ文脈でも、既存インフラの再価値化は非常に重要です。


大阪・万博:大規模イベントが加速した「社会受容性」の検証

技術と同じくらい重要なのが、社会受容性(信頼・安心)です。2025年の大阪・関西万博では、会場内外周バス(e Mover)での実証を通じて、利用者の意識変化をアンケートで把握する取り組みが公開されています。大阪府の資料によれば、推計乗車人数は約40,400名、自動運転での走行距離は約35,300kmとされ、利用前後で「快適」「安全」評価が上がり、「運転者がいない不安」が下がったことが示されています。

大屋根リング下を走行中の様子
大屋根リング下を走行中の様子
※出典:「2025大阪・関西万博における Osaka Metroの自動運転バスの取組みについて」2025年10月28日 大阪市高速電気軌道株式会社

さらに、万博公式のスマートモビリティ紹介では、EVバスに加えレベル4自動運転等の新技術融合を打ち出しており、イベントが「実証の舞台」として機能したことが読み取れます。 交通DXの観点では、こうした大規模運行における運行管理・案内・混雑制御は、まさにスマートシティが目指す統合運用の縮図です。

日本の自動運転バス実装パターン比較
事例主な運行エリアODD(運行設計領域)運行体制インフラ依存度主な目的
福井県 永平寺町遊歩道・生活道路低速(約12km/h)・限定ルート・歩車分離環境遠隔監視型(レベル4)低〜中(専用経路中心)地域移動確保・レベル4定常運行モデル構築
羽田イノベーションシティ街区内 → 空港周辺ルート拡張限定区域から公道接続へ段階拡張現地オペレーター+遠隔監視併用中(都市インフラとの接続)都市型自動運転の社会受容性検証
ひたちBRT(茨城県)専用道+一般道交差部BRT専用道主体・交差点で一般交通混在監視員同乗(段階的高度化)中〜高(専用インフラ活用)既存公共交通との統合・持続可能運行モデル
大阪・関西万博(2025)大規模会場内低〜中速・高密度人流環境集中管理型・大規模運行体制高(会場設計段階から統合)大規模社会実装・社会受容性・安全性実証


モビリティソリューションによる地域交通再編

自動運転バスの価値は、単に「運転を自動化する」ことに留まりません。むしろ実務上の本質は、地域交通の再編(サービスデザイン)です。人口減少局面では、従来の固定路線モデル(定時・定路線・運転手前提)を“維持する”よりも、需要と供給の設計を見直して「最適化する」ほうが、持続可能性が高いケースが増えています。これは自治体の交通政策、事業者の採算、住民の生活の足の三者を同時に満たす必要があるためです。

境町:定常運行の積み上げが「再編」の現実性を作った

地域交通再編の文脈で、全国の自治体が視察対象として参照する代表例が茨城県境町です。

境町公式サイトでは、自治体として国内で初めて自動運転バスを公道で定常運行したこと、BOLDLYやマクニカ等の協力のもと、生活路線バスとして運行を行ってきたことが明記されています。さらに直近では、2025年2月から新ルート(3ルート運行)を開始した旨が更新されています。

ここで重要なのは、「単発実証」ではなく、運行の継続と改善が地域交通の仕様を変えていく点です。継続運行があるから、バス停設計、住民案内、ダイヤ調整、車両更新(次期車両の導入)といった“交通の実務”が回り始めます。境町の取り組みが全国から注目されるのは、この実務の積み上げが、再編の説得力を作るからです。


MiCa導入とオンデマンド化:地域交通を「呼べる交通」へ寄せる

もう一段踏み込むと、自治体が目指すのは「定時運行の自動化」だけではありません。デマンド型・オンデマンド型への寄せ方(呼べる交通、予約できる交通)です。

境町とBOLDLYの発表では、レベル4対応の自動運転EV「MiCa」を導入し、住民の意見収集を経て、2024年2月にMiCa複数台での定常運行開始を予定していたことが示されています。 また、内閣官房/地方創生関連の資料には、「LINEで自動運転バスを呼べる町」という形で、MaaSアプリによるオンデマンド運行を見据えたストーリーが整理されています。

※出典:国内初、茨城県境町が
自動運転EV「MiCa」を導入。2023年12月6日茨城県境町、BOLDLY 株式会社

この方向性は、私たちが日本の自治体・場域主と議論するときにも非常に重要なテーマです。自動運転導入を検討し始めた段階では「まず走らせる」ことに意識が向きますが、運行が始まるとすぐに、「いつ走るのが住民に効くのか」「病院・買い物・駅接続に合うのか」「空便をどう減らすか」が課題になります。オンデマンドは、その解決のための自然な選択肢です。


「再編」の単位は車両ではなく、ネットワーク

地域交通を再編するとき、設計単位は「車両」ではなく「ネットワーク」です。現実的には、幹線(鉄道/BRT/路線バス)+支線(小型車両/オンデマンド/自動運転)+ラストワンマイル(徒歩・PM・シェア)の組み合わせに落ち着くことが多い。

この観点で見ると、ひたちBRTのように既存の公共交通資産を活かしつつ自動運転で運行を安定化させるアプローチと、境町のように生活路線として定常運行を積み上げていくアプローチは、どちらも「交通ネットワークを持続可能にする」同じ目的に向かっています。


地域交通再編の設計図
地域交通再編の設計図


データ活用・都市OSとの連携による新しい街づくり

自動運転をスマートシティの文脈で語るなら、最終的には「走行技術」から「都市運営」へ視点を引き上げる必要があります。都市OSが目指すのは、相互運用・データ流通・拡張容易という性質を通じて、分野横断でサービスをつなぐことです。 交通はその中心に置かれやすく、自動運転車両は“移動サービス”であると同時に、都市データの入口にもなります。


都市OSの共同利用:防災×交通データ連携の現実解

都市OSの価値は「一自治体の中」で閉じません。高松市を例にした都市OS導入資料では、観音寺市・綾川町といった周辺自治体が共同利用し、道路通行情報・気象・河川水位・潮位など防災関連情報をデータ連携で一元化した事例が紹介されています(資料提供:日本電気)。

この共同利用により、広域災害時の俯瞰的状況把握や意思決定支援を狙う、と明示されています。

自動運転の社会実装は、実はこの延長線上にあります。走行可否判断(天候・道路規制・渋滞・工事)をリアルタイムで“外部データ”に依存するほど、都市OSのデータ流通が効いてくる。

永平寺町のODD条件に、悪天候や夜間除外、緊急車両の不存在などが含まれている点は、まさに「外部条件が安全を規定する」設計そのものです。


会津若松の実務:同意・契約・APIが「データ活用」を現実にする

都市OS連携を現場で成立させると、最後に必ず出てくるのが「データの扱い」です。会津若松の事例では、オプトイン機能強化、関係主体(市民、都市OS運営主体、サービス提供者、データ提供者)間の規約・契約整備、API公開といった、実装のための具体的な作業が公表されています。

スマートシティ文脈で「データ活用」という言葉が空中戦になりがちなのは、ここ(同意と契約)を避けて通れないからです。逆に言えば、交通DXや自動運転を自治体の「基盤投資」として成立させるには、技術よりも先に「運用に耐えるデータ設計」を整えることが、近道になりやすい。

都市OSを中心としたスマートシティの構造イメージ(国土交通省資料より)
都市OSを中心としたスマートシティの構造イメージ(国土交通省資料より)
出典:スマートシティ官民連携プラットフォーム事務局「スマートシティポータルサイト」


自動運転サービス支援道:インフラが「自動運転を支える」時代へ

2024〜2026の日本で特徴的なのは、車両だけでなく「道(インフラ)側が支援する」発想が前面に出てきたことです。

中日本高速道路は、新東名高速道路などで自動運転トラックの要素技術検証や実証実験を進める旨を継続的に公表しています。 また、経産省の「自動運転サービス支援道」普及戦略の資料では、新東名高速道路の駿河湾沼津〜浜松間で100km以上の自動運転車優先レーンを設定し、インフラから周辺環境情報を提供して自動運転を支援する構想が明記されています。 さらに、制度・整備の動きが実証に入ったことも示されています。

レベル4自動運転トラックによる関東―関西間幹線輸送実証の様子(2026年1月)
レベル4自動運転トラックによる関東―関西間幹線輸送実証の様子(2026年1月)
※出典:株式会社T2 プレスリリース(2026年2月25日)

この流れは、都市交通の自動運転にも波及します。路車協調、交通規制情報、工事情報、信号情報など、車両が“自律”するほど必要になる外部情報は増えます。スマートシティが都市OSでデータ流通を整えるのは、まさにこの未来に備えることでもあります。

自動運転と都市OSを連携したデータ統合アーキテクチャ

まとめ

2023年〜2026年の日本の動きは明確です。制度(特定自動運行)が整い、永平寺町のような国内初のレベル4サービスが始まり、羽田のように都市部で民間主導のレベル4運行が継続し、ひたちBRTのように既存交通インフラを活かした中型バスの営業運行が実装され、万博のような大規模オペレーションで社会受容性まで検証されました。

さらに政策面では、国土交通省の資料において、政府目標として「2027年度までに無人自動運転移動サービスを100か所以上で実現」が掲げられていること、2030年度に向けて自動運転サービス車両数の目標(10,000台)を設定していることが明記されています。 つまり、自治体・車両メーカー・場域主にとって、「検討するかどうか」ではなく「どう設計し、どう実装するか」が勝負になるフェーズに入っています。

私が日本市場の第一線で感じる結論はシンプルです。スマートシティにおける自動運転は、“車両の導入”ではなく、都市交通の再設計(交通DX)と、都市OSを前提にした運用の設計で成否が決まる。都市交通をスマートにすることは、街そのものを強くすることに直結します。